OBAYASHI - Smart BIM Standard

プロセス管理に必要なLODとは

BIMモデリングのプロセスを管理するためのLOD活用について説明します。 LODが指す用語には「Level of Detail(詳細度)」と「Level of Development(進捗度)」があります。「モデルを詳細化する」という言葉を具体的なモデリングに当てはめると、各モデル要素が持つ詳細要素を増やしていく、ということになります。これが「Level of Detail」の概念です。一方、モデルの形状や付加された情報が信頼に足るものかどうかを表現する概念がモデルの進捗度を表す「Level of Development」です。

モデルに関する関係者間のコミュニケーションに必要なのは後者であるため、各要素のLevel of Developmentを特定すること(=LOD Specification)を情報共有に必要な表現方法と位置づけ、Smart BIM Standard では、LOD spec(LODs)を運用します。

アメリカ建築家協会(AIA)が主催するBIM Forumからリリースされた文書の中で、LODsは「コミュニケーションの齟齬(そご)を解消し、BIMのマイルストーンと成果物を詳細に定義することを促進します」と記載されています。さらにBIM Forumが発行しているLODs GuideにはLODsが持ついくつかの重要な特徴が記されています。その概要を以下に示します(抜粋)。
・物件ごと、フェーズごとに要素の進捗度は異なりLODは混在することが普通であるため、LODsは設計フェーズのみを表すものではない
・上記の通りLODは混在するものであるため、LODsはフェーズに応じた完成度を表す「LOD300モデル」というようなモデル全体を表さない
・必要な進捗度を共有し、下流工程が信頼してよい情報であることを特定することが目的であり、時期に応じた要求を示すものではない
・BIM実行計画書を補足するものであって代替物ではない

あくまでも目的は、それぞれの作業工程の節目においてモデルの進捗度を正しく理解することと位置づけられています。原典である「LODs」ではLODの6つのレベルのうち、5つについて要件が定義されています。例えば、LOD200と300のサマリを参照すると、レベル200では「あらゆる情報を近似値として見る必要がある」、300では「モデルから直接計測できる」と定義されています。データ形状がすべて「そこそこ」でよいレベル200と、高さも含めて形状がすべて正しいレベル300、という設定です。

現実的な問題として、設計段階でLOD300のモデルを入力するのは、非常に難しいと思います。つまり、原典通りであれば、レベルごとの差が大きく、現行の業務とフェーズ管理を合致させにくい、と言えます。
この問題を解消するために、Smart BIM Standardでは独自のレベルを追加しています。例えば、200と300の間に「平面情報とプロパティが正確である」という要件の、レベル250を追加、施工図レベルで平面詳細情報が正しいというレベル325を追加します。このようなレベルの追加を行うことで、現行の業務と照らし合わせながら、達成可能な目標レベルが設定できるようになります。そして原典である「LODs」には部位ごとの要件が具体的に例示されています。例えば、木造間仕切り壁の例では、レベル200ではオブジェクトの分類が求められ、300では下地計画が可能なモデルが求められています。
この要件を基にモデリングを行う場合、「Revit操作に置き換えるとどうしなければならないか」を考える必要があります。しかし、LODsはRevitユーザーだけに向けて作成されているものではないため、要件はRevit操作と合致しません。

なすべきことの判断が各モデル入力者に委ねられると、モデルによって出来高が異なる可能性が発生します。この問題を解消するためには、LOD要件をRevit操作に変換する必要があります。例として先に示した木造間仕切り壁、LOD200の要件を考えます。すると、インスタンスの位置、インスタンスのタイプ選択、そしてプロパティに分解することができます。このようにして、原典における要件をRevit操作に沿わせることで、実運用が可能なLOD要件になります。

Smart BIM Standardでは、カテゴリ単位ごとにLODレベルの要件をRevitのモデリング作業に置き換えたLOD管理シートを作成しています。LODsはモデル進捗度の共通認識を目的とするため、LOD要件の文面は変更せず、特記事項は備考欄に記載する、もしくはBIM実行計画書に記載して運用することとしています。

ここまで記したように、運用可能な形に定義しなおしたLOD要件があれば、フェーズごとに「目標LOD」を定めることができるようになり、この目標に対してモデリング上、なすべきことが明らかになります。これにより、モデリングの指示者が、どこまで行うべきか、悩むことがなくなり、指示するための手間が削減されます。また、モデルの入力者も何をすべきか明確になり、作業に迷うことがなくなります。これらはモデリングされたものを確認する場合も、モデルが持つ膨大な情報のうち、チェックすべき事項を限定することになり、無用なチェック作業が生じなくなります。これらがもたらす最大の恩恵は、フェーズごとのモデル精度の向上であり、信頼できる情報が選択可能になることです。
手戻りを防ぐためにも、どの時点で、どの情報を、どこまで入力するかを管理することは非常に大事なことです。

課題の解決へ向けて

BIMの難しさとして、「モデリングプロセスの管理ノウハウがない」「モデルが持つ情報活用と図面機能の塩梅を見定めなければならない」「情報のつくり方に手法がない」という3点を挙げました。この課題に対して、われわれが見出した解決方法が次の2点です。1つの課題に1つの解法がある訳ではなく、3つの課題を複合的に解決する手法となります。

●情報を仕分けるための階層化手法
●プロセスを管理するためのLOD(Level Of Development)管理手法

Smart BIM Standardは、上記の解決方法を意識した基準となっています。BIM一貫利用のためのルールは、単に入力のしやすさ、情報の分かりやすさだけを考慮して定めたものではありません。「What’s SBS?」ページでは、「モデリングルールはBIMがもたらすデータの型をそろえるために必要」と記していますが、その観点から考えると、モデリングルールは、運用をスムーズに行うために「適用しやすく」「照合しやすく」「更新しやすい」のが理想です。このための条件は「人が理解・記憶しやすいこと」、そして「コンピュータの支援を得やすいこと」と考えました。この条件を達成する手段として、「情報を仕分けるために階層化されていること」「データで記述できるLODを活用すること」が解決方法であると見出しました。

既知の通り、大林組では社内標準ソフトとして、Autodesk社のRevitを使用しています。Revitには建築、構造、設備用のユーザインターフェースがあり、建築、構造、設備間の整合調整を行うにあたり、1つのモデルを作成できるということが標準ソフトに選定した大きな理由で、情報を階層的に保持できるというのも大きな特長です。 しかし、Revitは習熟が難しいアプリケーションと言えるかもしれません。コンセプトの理解だけでは実践が難しい部分が多々あると思います。大林組の中で得られた知見を盛り込んだコンテンツなどもアップしています。多くのRevitユーザーへの一助となれば幸いです。

次回はSmart BIM Standardで扱うLOD活用について解説します。

BIMの難しさの正体(3)-情報定義

BIMから抽出したい情報は何でしょうか。この答えは、極論すると数量に他なりません。3Dビューによる合意形成も干渉チェックも重要なBIM利用の目的じゃないか、と言う声が聞こえてきそうです。当然、3次元図形情報も重要な情報の一つですが、合意形成も干渉チェックも確定情報をつくるための手段です。達成したいのは、モデル内に関係者が合意した結果の「確定した情報を得ること」です。


この「確定した情報」の利用方法に3次元図形情報が必要な場合もありますが、ここでは「数量」という一次元で考えます。

BIMからは、コンクリートが何立方メートルあるのか、石膏ボードが何平方メートルあるのか、片開きのドアが何ヵ所あるのか、といった情報が取得できます。十分に入力されたBIMモデルからは数万点の部品情報が取得できます。全てのモデル要素から「容積」が取得でき、全ての面要素から「面積」が取得でき、全てのコンポーネントの「個数」が取得できます。ところが、多くの場合、モデルを入力しただけでは目的は達成されません。数万に及ぶ数量のデータに意味が備わっていないと価値がないからです。

数量は「何の」という情報と合わさって初めて情報に価値が生まれます。前述の例で言うと、「コンクリートが」「石膏ボードが」「片開きのドアが」といった主語の部分が必要です。ではこの主語はどのように決めればよいのでしょう。「コンクリートが」という主語は必要十分に集合を表しているでしょうか。設計強度を加味して「Fc21のコンクリートが」「Fc24のコンクリートが」というように細分化が必要でしょうか。あるいはプラントに発注する際の配合まで加味した細分化が必要でしょうか。

答えは「不定」です。どの分け方も必要かもしれませんし、どれも不要かもしれません。組織の形態、プロジェクトにおけるBIMの目的設定、プロジェクトの時期、などによって答えが異なります。

残念ながら、この「何の」に当たる情報のつくり方に体系的に整理されたものはありません。この情報のつくり方に手法がない、という点がBIMの難しさの正体の3つ目です。


BIMの難しさの正体(2)-利用目的

何かの目的を達成するための手段としてBIMを導入したはずが、知らぬ間にBIMモデルを作成することが目的になっていることがあります。BIMに難しさを感じているならそれを解消するために、何のためにBIMを利用しているか、ということを改めて考える必要があります。

BIM界隈でよく聞こえてくる不満の一つに「CADに比べて作図機能が弱い」あるいは「BIMの図面でCAD図面のような表現をしようとすると大きな手間がかかる」というような図面機能に関するものがあります。

CADは2次元図面を作成するための専用のソフトです。一方BIMは、機能の一部として2次元図面「も」作成できるソフトです。従来のような文字入力や線分描画による書き込み情報の追記、特記による省略などの図面表現が容易に作成できるかどうかという観点で、BIMの図面作成機能がCADに劣るのは当然です。それは、それぞれ道具としての「目的」が異なるためです。BIMは2次元作図専用ソフトではないので、BIMの図面がCAD図面に比べて拙いと感じるのは明らかです。

それでもBIMを使う目的は何でしょうか?

多くのBIM利用者は、モデルを入力した結果、得られる情報を使いたい、という動機に支えられていると思います。従来の建設プロセスでは情報の書き写しや書き直しによる伝達が繰り返されてきました。例えば、設計分野の違いから起こる齟齬(そご)のある図面、相違のある平断面と矩計図、設計図を基に詳細化した施工図、施工計画図など多々存在します。業務フローとして無駄が多いだけでなく、伝達ミス・記載ミスのリスクも抱えます。この解決をBIMに求めているはずです。この動機を認めるなら、図面(2Dビュー)はモデル入力の正しさを確認するための手段の一つです。あるいはモデルが持つ情報を図化して伝達するための手段です。つまり図面は目的ではなかったはずです。目的は、BIMが持つ情報を使うこと、使える情報を得ることです。CAD図面のような図面表現を追いかけて情報が中途半端なBIMモデルを作成することは本末転倒となってしまう可能性があります。

このように図面ありきではBIM運用が上手く行える可能性が大きく低下してしまいます。ところが厄介なことに図面は非常に優れた情報伝達手段です。そのため、図面を度外視してもBIMは上手く行かないでしょう。

このBIMモデルが持つ情報と図面表現の塩梅を見定めなければならないことが、BIMの難しさの正体の2つ目です。

次回は、「BIMの難しさの正体」の3回目として「情報定義」についてお伝えします。本当に必要なのはBIMの「何の」情報か、また確定した情報を得るための情報定義にはどの程度の細分化が必要かを考察します。


BIMの難しさの正体(1)-プロセス管理

今回から、BIMの難しさの正体を「プロセス管理」「利用目的」「情報定義」の3つの観点から掘り下げていきます。第一回目は「プロセス管理」についてです。

BIMデータを「使う技術」は日々メディアを賑わせています。ロボット施工やクラウドを利用した現場管理、維持管理データベースの構築など、百花繚乱の様相です。

ところがBIMデータを「つくる技術」はどうでしょうか。残念ながらつくるための技術は、使うための技術のような華やかさはありません。地道に構築されたモデリングルールやテンプレート、モデリングの入力体制とその組織運営などが主なBIMデータ作成技術といえます。BIMデータの作成に特効薬はなく、BIMデータを「つくる技術」は各組織で閉じており、社会的には水面下で動いている状況です。

BIM利用の目的が大きければ大きいほど、BIMモデリングの負荷は高くなります。負荷の高いモデリングには習熟度の高いモデル入力者が必要となり、その管理にはさらに習熟度の高いモデル管理者を要し、モデリングにおけるあらゆる場面で高度なモデリングの制御が必要になります。このBIMモデリングのプロセス管理には多くの技術的な解決が必要となっています。

ところがモデリングのプロセス管理については公開されている情報はほとんどありません。プロセス管理は物件情報という機密情報と密接であるため、企業間の情報共有もほとんどなされず、各組織で解決を模索されています。

データ化されていなかったものにルール付けをする、また今まで以上に早い段階での分野間の情報共有が重視され、既存の業務プロセスを見直す必要がありますが、意識改革、既存プロセスからの変化への対応が難しく、思うように進まず苦しんでおられる方が多いのではないでしょうか。

このようにモデルを「つくる技術」、つまりプロセスを管理する技術を構築するには、情報が不足しているという大きな障害があります。情報が不足しているため組織内で失敗を重ねないと技術が構築できない状況があり、一方で各プロジェクトでは失敗が許されない状況のため、BIMは失敗の前に切り捨てられ、BIMの恩恵を享受できず、プロセス管理のノウハウも蓄積できない、という悪循環に直面していないでしょうか。

このプロセス管理のノウハウがどこにも見当たらない、という点がBIMの難しさの正体の一つ目です。

次回は、「BIMの難しさの正体」の二回目として「利用目的」についてお伝えします。BIMを手段と考えるか、目的と考えるかで大きく見え方が変わります。BIMの利用目的についてあらためて考察します。

「設計施工BIM一貫利用」への近道

国土交通省主催の建築BIM推進会議で、BIM活用の現状は、「設計、施工のプロセスごとに個別に活用され、プロセス横断的な活用(つまり「設計施工一貫利用」)はあまり行われていない(※1)」とされています。またプロセス横断型のBIM活用を進める最大の意義として、「受け渡されたBIMを各プロセスで適宜活用することで、プロセスごとに重複していた情報入力・加工作業などが省略化される(※2)」ことが挙げられています。

確かに建物1棟のBIMモデルを作成するには、少なからぬ時間と費用がかかりますので、設計段階、施工段階それぞれでモデルを作成することは不経済です。とはいえ重複していた入力作業の削減だけが、設計施工一貫利用の目的ではないと考えます。

BIMは3次元形状を表現できることから、導入時はその点が注目されました。平面図と立断面図に分けて表現する図面と比べて、好きな方向から見て一目で形状を把握できることから、お客様への説明や複雑な形状の検討などを中心に活用が進みました。しかし、このようなビジュアライズ目的の活用だけでは、建築生産活動における生産性を劇的に向上させる効果は生まれません。

BIMを生産性向上の切り札にするためには、BIMモデルが持つ情報を活用することが不可欠です。これまで現場業務を行う際の根拠資料は、形状や仕様は設計図書、数量は積算集計書、コストは工事予算書などと分散して手渡されていましたが、BIMを活用すれば、整合性が保たれたデータとして引き出すことが可能です。例えば、ある階の防火区画の面積を仕様別に瞬時に集計できます。

このときに重要なのは、そのデータが正しいか、信頼できるかという点です。それにはまず設計情報を正しく反映したBIMモデルが必要です。もちろん設計段階ですべてが正しく確定していることはありませんので、生産段階で検討を加え、完成度を上げていくことになりますが、まずは設計段階として正しいモデルであれば、非常に利用価値が高まります。

また、BIMモデルだけでなく、プロジェクト毎のBIM要件やBIMモデルの進展度を適切なタイミングで関係者へ共有することも大切です。正しい情報伝達により、さらに利用価値が高まります。

設計情報の確実さ、かつスムーズな伝達こそ、BIM一貫利用の目的だと考えます。


次回は、「BIMの難しさの正体」と題して「プロセス管理」についてお伝えします。3つのシリーズからなる第一弾です。BIM推進が困難な理由を掘り下げて考察します。


※1「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン」(第1版、第2版)【概要】1ページに記載

※2「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン」(第1版)7ページ、(第2版)12ページに記載

(参考)建築BIM推進会議作成資料 建築:建築BIM推進会議 – 国土交通省 (mlit.go.jp)