OBAYASHI - Smart BIM Standard

BIMの難しさの正体(1)-プロセス管理

今回から、BIMの難しさの正体を「プロセス管理」「利用目的」「情報定義」の3つの観点から掘り下げていきます。第一回目は「プロセス管理」についてです。

BIMデータを「使う技術」は日々メディアを賑わせています。ロボット施工やクラウドを利用した現場管理、維持管理データベースの構築など、百花繚乱の様相です。

ところがBIMデータを「つくる技術」はどうでしょうか。残念ながらつくるための技術は、使うための技術のような華やかさはありません。地道に構築されたモデリングルールやテンプレート、モデリングの入力体制とその組織運営などが主なBIMデータ作成技術といえます。BIMデータの作成に特効薬はなく、BIMデータを「つくる技術」は各組織で閉じており、社会的には水面下で動いている状況です。

BIM利用の目的が大きければ大きいほど、BIMモデリングの負荷は高くなります。負荷の高いモデリングには習熟度の高いモデル入力者が必要となり、その管理にはさらに習熟度の高いモデル管理者を要し、モデリングにおけるあらゆる場面で高度なモデリングの制御が必要になります。このBIMモデリングのプロセス管理には多くの技術的な解決が必要となっています。

ところがモデリングのプロセス管理については公開されている情報はほとんどありません。プロセス管理は物件情報という機密情報と密接であるため、企業間の情報共有もほとんどなされず、各組織で解決を模索されています。

データ化されていなかったものにルール付けをする、また今まで以上に早い段階での分野間の情報共有が重視され、既存の業務プロセスを見直す必要がありますが、意識改革、既存プロセスからの変化への対応が難しく、思うように進まず苦しんでおられる方が多いのではないでしょうか。

このようにモデルを「つくる技術」、つまりプロセスを管理する技術を構築するには、情報が不足しているという大きな障害があります。情報が不足しているため組織内で失敗を重ねないと技術が構築できない状況があり、一方で各プロジェクトでは失敗が許されない状況のため、BIMは失敗の前に切り捨てられ、BIMの恩恵を享受できず、プロセス管理のノウハウも蓄積できない、という悪循環に直面していないでしょうか。

このプロセス管理のノウハウがどこにも見当たらない、という点がBIMの難しさの正体の一つ目です。

次回は、「BIMの難しさの正体」の二回目として「利用目的」についてお伝えします。BIMを手段と考えるか、目的と考えるかで大きく見え方が変わります。BIMの利用目的についてあらためて考察します。

「設計施工BIM一貫利用」への近道

国土交通省主催の建築BIM推進会議で、BIM活用の現状は、「設計、施工のプロセスごとに個別に活用され、プロセス横断的な活用(つまり「設計施工一貫利用」)はあまり行われていない(※1)」とされています。またプロセス横断型のBIM活用を進める最大の意義として、「受け渡されたBIMを各プロセスで適宜活用することで、プロセスごとに重複していた情報入力・加工作業などが省略化される(※2)」ことが挙げられています。

確かに建物1棟のBIMモデルを作成するには、少なからぬ時間と費用がかかりますので、設計段階、施工段階それぞれでモデルを作成することは不経済です。とはいえ重複していた入力作業の削減だけが、設計施工一貫利用の目的ではないと考えます。

BIMは3次元形状を表現できることから、導入時はその点が注目されました。平面図と立断面図に分けて表現する図面と比べて、好きな方向から見て一目で形状を把握できることから、お客様への説明や複雑な形状の検討などを中心に活用が進みました。しかし、このようなビジュアライズ目的の活用だけでは、建築生産活動における生産性を劇的に向上させる効果は生まれません。

BIMを生産性向上の切り札にするためには、BIMモデルが持つ情報を活用することが不可欠です。これまで現場業務を行う際の根拠資料は、形状や仕様は設計図書、数量は積算集計書、コストは工事予算書などと分散して手渡されていましたが、BIMを活用すれば、整合性が保たれたデータとして引き出すことが可能です。例えば、ある階の防火区画の面積を仕様別に瞬時に集計できます。

このときに重要なのは、そのデータが正しいか、信頼できるかという点です。それにはまず設計情報を正しく反映したBIMモデルが必要です。もちろん設計段階ですべてが正しく確定していることはありませんので、生産段階で検討を加え、完成度を上げていくことになりますが、まずは設計段階として正しいモデルであれば、非常に利用価値が高まります。

また、BIMモデルだけでなく、プロジェクト毎のBIM要件やBIMモデルの進展度を適切なタイミングで関係者へ共有することも大切です。正しい情報伝達により、さらに利用価値が高まります。

設計情報の確実さ、かつスムーズな伝達こそ、BIM一貫利用の目的だと考えます。


次回は、「BIMの難しさの正体」と題して「プロセス管理」についてお伝えします。3つのシリーズからなる第一弾です。BIM推進が困難な理由を掘り下げて考察します。


※1「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン」(第1版、第2版)【概要】1ページに記載

※2「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン」(第1版)7ページ、(第2版)12ページに記載

(参考)建築BIM推進会議作成資料 建築:建築BIM推進会議 – 国土交通省 (mlit.go.jp)